DLドーハ
久しぶりの更新となりましたが、開幕したダイヤモンドリーグ初戦のドーハ大会についてです。
200m +1.3m
ライルズ19.83
リチャーズ19.99
グリエフ20.11
ブラウン20.18
ミッチェル・ブレイク20.37
ディグラス20.46
昨年ツアーチャンピオンのライルズが優勝。
世界陸上覇者のグリエフは左右のバランスが悪くスピードを維持できず、同銅メダリストのリチャーズもまだそこまでのキレはない中で、シーズン序盤にも関わらずそれなりに仕上がっているライルズが抜け出した形だろうか。
ややコーナーで外に振られているようにも見えるのでさらに記録を伸ばしそうではある。
ただリチャーズも今回の走りで19秒台はさすが。次戦以降の調子次第で順位はひっくり返るかもしれない。
ディクラスはまだまだ本調子ではないのか。
意外とブラウンが健闘した。
400m
ガーディナー43.87
ハロウン44.50
マクワラ44.92
ガーディナーがいきなり自己新。
といっても200mでも好記録を出していたので不思議ではないが。
それにしても素晴らしい走りだった。
マクワラも自己ベスト時のスピードでいえばガーディナーに負けていないが、そのスピードを操る能力においてはガーディナーの方が長けているといえるだろうか。
走りに無駄がなく、ナチュラルな動きで自身の身体をトラック一周分運んだとでもいうのか。
ファンニーケルクが離脱しているのが残念でならない。
ハロウンはガーディナーに比べれば強引な走りだったが、まずまずの記録で昨年の世界陸上メダリストとして力を発揮した。
この選手のパワーがもっと効率的な動きになるとすごい記録を出すかもしれない。
そう単純ではないからおもしろいんだけども。
〜了〜
2017男子短距離種目 勝手にMVP
海外
【各種目MVP】
100m
ガトリン
200m
グリエフ
400m
ファンニーケルク
まあ単純に世界陸上を制した選手になりました。それを超えるパフォーマンスもなかったので。
【短距離総合MVP】
ファンニーケルク
世界陸上の200mでも銀メダルを獲得したファンニーケルク。
また100mで9.94をマークしたことも考慮して。
【2017年 ベストレース(個人的にもっとも面白かったレース)】
世界陸上100決勝
とてつもないブーイングの中で制したとか、ボルトに勝ったとか、そんなドラマチックな面はさておいても、やはり上記三者の中でガトリンのレースは1番完成度が高く、見応えがありました。
同じ世界陸上では記録は低調でしたが、ファンニーケルク、グリエフ、リチャーズ、マクワラらなかなか個性的なメンバーが揃った200mの争いも面白かったですね。
世界陸上以外ではディグラスが追い参ながら9.69をマークした走りや、ジャマイカ選手権のブレイクの走りも印象に残りました。
国内
【各種目MVP】
100m
サニブラウン選手
日本選手権のすべてのレース、特に決勝が素晴らしかったこと。そして世界陸上の予選において自己タイで一着通過したことでMVP。
9秒台を出したことと今季アベレージを考えれば桐生選手も候補にあがりますが、内容的にはやはりサニブラウン選手が上回っているか。
200m
サニブラウン選手
こちらも世界陸上で決勝に進出したので 文句なしのMVP。史上最年少の同種目ファイナリストという事実もさることながら、世界の予選から準決勝において勝負を賭けた切り替えが10代で出来たことが凄い。
400m
北川選手
世界レベルで活躍した選手は残念ながらいませんでしたので、日本選手権を制した北川選手としました。
ウォルシュ選手でもいいのかもしれませんが、こちらもこれといって突出した結果がなかったので。
【短距離総合MVP】
サニブラウン選手
上記内容から。
【2017ベストレース】
日本選手権決勝のレースでもいいのですが、難易度面も考えてこのレース。
また衝撃度で言えば日本選手権準決勝でサニブラウン選手が多田選手を圧倒したレースもなかなか。
正直、あれだけ絶好調だった多田選手が決勝で何をどう修正しようが「こりゃ勝てないだろうな」と思った走りでした。
歴史的な意味ではやはり桐生選手の日本新も素晴らしかったですが、負けじと良かったのが山縣選手の全日本実業団決勝の走りですね。
それにしても今季の日本の100mは過去最高に面白かった。
サニブラウン選手、ケンブリッジ選手、多田選手が世界陸上で準決勝に進出し、その世界陸上に出られなかった桐生選手と山縣選手がランキングでワンツー。しかも歴代1位と2位の記録で。
更に飯塚選手も10.08をマークして0台に突入し、原選手も10.13を記録。
銅メダルメンバーの藤光選手も自己新をマークするなど話題に事欠きませんでした。
今後9秒台がどんどん出るのではないかという見方もありますが、ここまで大激戦になることは今後ないかもしれませんね。
〜了〜
桐生選手が日本人初の9秒台を記録
先日行われた日本インカレで桐生選手が9.98の日本新をマーク。
とうとう日本選手初による9秒台がマークされました。
初めて日本人による9秒台の可能性を感じたのは90年代後半の朝原氏、そして伊東氏でした。
そこから約20年。正直ここまでかかるとは思いませんでした。誰がいつ出してもおかしくない状態が時代、世代を越えて持ち越され続けました。
ですが単に9秒台をマークするということ以上に価値のある、またそれに並ぶレースはこれまでにいくつもあったと思います。
直近で言えばサニブラウン選手の今年の日本選手権決勝や世界陸上予選の走り、昨年のオリンピックでは山縣選手の予選と準決勝、ケンブリッジ選手の予選の走り、遡れば朝原選手が世界大会以外の国際大会においても世界のトップたちと渡り合ったレースなどがそれにあたるのではないでしょうか。
要はどういったレースでどんな選手と走ったのか、そこでどこまで戦えたのかといった点においての価値です。
そういった価値のあるレースはいくつもあったにもかかわらず、なぜここまで日本新が出なかったのかが不思議なわけですが、それは為末氏が言っていたように日本記録が9秒台ではなく、10秒01でも02でもなく、00だったことも少なからず影響したでしょうか。
次の日本新は誰も成し遂げていない大台の9秒台だ、という壁を必要以上に、そして無意識に大きく作り過ぎてしまうとでもいうのか。
だとすれば、各選手の記録に対する無意識のリミッターは外れたかもしれません。
そして9秒台そのものも今までのような価値はなくなるのではないか。
現に桐生選手の今回の走りも本人が脚に不安があったというように、桐生選手ベストの走りではなかったはず。
多田選手もハードな連戦の疲れからか後半はやや脚が後ろに流れてしまい、好調時の走りよりかは劣ったのではないかと思うので、条件も良かったでしょうか。
とはいえ多田選手も10.07のベストで走っていることに違いはない訳で、序盤の飛び出しはやはり見事でした。
そして桐生選手が素晴らしいのはそんな多田選手に先行されても全く動じなかったこと。
いくらインカレとはいえ多田選手との対決は少なからずプレッシャーはあったと思います。
そして最近は勝負弱い、などという声もありましたので、その辺りの心理的影響も小さくなかったと思いますが、そんな壁を一つ乗り越えたところに9秒突入が待っていました。
レースを振り返ると、スタートは土江コーチもいうようにやや抑え目に見えますが、決して出遅れることはなく、むしろスムーズに飛び出すことができました。
跳躍選手が踏切前に一瞬力を抜くタイミングが見事にハマって大ジャンプにつながるかのように、スタートから起き上がるまでの動きは無理なくナチュラルでいて最大限の出力を生み出していたのではないでしょうか。
更にこの日はここからが凄かった。
いつもは50mあたりで到達する最高速度が60mあたりだったらしいですが、実際に中間地点を過ぎてからも力みはなく、脚の回転と接地が必要最低限の可動域内で処理され、そこから生まれたリズムと出力を桐生選手は見事にコントロールしました。それも多田選手と競り合いながら。
本調子であれば、更に噛み合えば8台後半から9台前半も確かに不可能ではないかもしれないですが、もちろんそんなに単純ではないでしょう。
走りの内容自体は今年の織田記念や、2年前に参考で9.87を出した時の方が良かったかもしれませんが、スプリンターとして優れたレースを作ったのは今回の方かもしれません。
今回記録は狙っていなかったとのことですが、いわゆる「出てしまった記録」とは違います。
簡単にいうなら走りに支配されるのではなく、走りを支配したレースだったとでもいうのか。
いずれにせよ、これで日本選手の限界線をも取っ払うことが本当にできたのなら、それが9秒台の持つ最も重要な意味なのかもしれませんね。
〜了〜
ロンドン世界陸上 男子400mR・その他
M400mR f
1.イギリス 37.47
2.アメリカ 37.52
3.日本 38.04
4.中国 38.34
5.フランス 38.48
6.カナダ 38.59
7.トルコ 38.73
ジャマイカ DNF
予選を見た印象ではアメリカ、イギリス、ジャマイカが強く、日本は中国、フランスと4位争い。
3強の一角がバトンミスをしてメダルもあり得るかと思っていたが、まさかボルトの故障によってこのような結果が訪れるとは思わなかった。
多田選手は大外のレーンが良かったのもあるのか、予選同様にトップ争いを演じて飯塚選手へ。
飯塚選手はトップの3国には詰められたか。しかし200mの時よりもキレのあるいい走りを見せた。
桐生選手はタルボットには先行されたがほぼ同じ位置をキープ。バトンはやや詰まったように見えたがアンカーの藤光選手へ。
決勝からのレースとなった藤光選手はベテランらしく、安定した走りを見せて見事に3位でゴール。
おそらくケンブリッジ選手でもメダルは取れたのではないかと思うが、この段階で最も好調だったのは藤光選手なのだろう。
やや前傾気味にも見えたが、動きはスムーズでキレていた。後続に追い上げられることなく、最後まで自身の走りができたのはこの選手のキャリアによるものもあるだろう。
日本はこれでオリンピックに続いて世界大会2大会連続でのメダル、世界陸上では初のメダルとなった。
チーム全体の安定感はやはり突出したものがあるのだと思うが、これからの選手はこの2年の結果がベースになるだろうからから大変だな。
それにしてもイギリスは強かった。全員よかったが2走のジェミリで抜け出したのが大きかったのではないか。
また同じ2走でガトリンが思いのほかリードを奪えなかったことも後押ししたように思う。
ミッチェル・ブレイクとコールマンのアンカー対決においては走力ではコールマンに分があるが、バトンのスムーズさに加えて加速走の能力でミッチェルが上回った。
コールマンは個人100mでは冷静だったが、ここではやや焦ったか。
そしてジャマイカは無念の途中棄権。
ハードルから駆り出されたマクレオド、また個人100mは準決勝敗退となったフォルテは想像以上にいい走りをしたが、ブレイクは個人に続き精彩を欠いて上位2チームに離された。
その差を追い上げるのに必要な走りは今のボルトには出来なかったということか。
結局最後まで走りきることも出来ずに競技場を去り、スーパースターとして残念な結果に終わった。
勝負の世界がいかに厳しく、無情なものかがよく分かるが、無責任に言うならその中で限界を超えて砕け散って終わるのもスプリンターらしいと言えるかもしれない。
なので、個人的には残念ではあるがスッキリした最後だと思っている。
いずれにせよ、最後まで強烈な印象を与える選手だった。
というわけで、遅くなりましたがザックリとした感想でした。
今大会もなかなか盛り上がりましたが、実はあまり他の種目は見れていません。
が、その中でも男子400mH準決勝のクレメントのレース巧者ぶりに感心してからの決勝でのワーホルムのはじけっぷりなんかは印象に残りましたね。
ワーホルムは今季DLからはじけてましたが、大舞台ではクレメントがしっかり合わせてくるんだな、と思ってからのまさかの結末だったので面白かったです。
他にはサリー・ピアソンの復活優勝、バルシムの完勝も印象に残りましたが、細かいところでいうと男子マイルでアメリカを破って優勝したトバゴの2走を務めたリチャーズの走りは興味深いものがありました。
個人200mでもメダルを獲得し、400mのベストも45秒前半なので妥当な走りだったかもしれませんが、レースの流れを一気にチームに引き寄せた迫力は凄かったです。
もちろんセデニオ、ゴードンらの走りも素晴らしかったですが、今後世界のレースを盛り上げてくれそうな魅力を感じました。
男子400m準決勝で43秒台を出したガーディナー、女子100m準決勝のトリ・ボウイの走りなんかも印象に残りますが、やっぱりサニブラウン選手の100m予選が最も強烈だったですかね。
ここから2年間は世界大会がありませんが、その間に上記の選手も含めて新たなスターが誕生してほしいですね。
〜了〜
ロンドン世界陸上 男子200m決勝
M200mf -0.1m
1.グリエフ 20.09
2.ファンニーケルク 20.11
3.リチャーズ 20.11
4.ミッチェル・ブレイク 20.24
5.ウェブ 20.26
6.マクワラ 20.44
7.サニブラウン 20.63
8.ヤング 20.64
今季のグリエフには期待していたが、まさか勝ってしまうとは。
勝因は直線で最も余裕があったからだと思うが、それはコーナーの走りから生まれたものなのだろう。
見た目の厳つさとは対照的にコーナリングは非常に丁寧で効率的。
「コーナーと仲良し」、そんな優しささえ感じる繊細さがある。
もちろん今季9秒台をマークしているそのスピード強化も大きな勝利の要因だろうけども、そのスピードを生かすためにコーナーに対して付かず離れず絶妙なポジションに位置し続ける能力の高さが凄いとでもいうのか。
所謂コーナリングの名手、というのとはちょっと違うような気がする。
200mと一体化されたコーナリングとでもいうのか、走力と自身のレースプランを一致させるために割り出された最も効率的なコーナリングとでもいうのか。
いずれにせよ余計な力を使わなかった分だけ最後まで自分のリズムとタイミングで走り抜けることができた。
ファンニーケルクは僅かだが前半飛ばし過ぎかと思ったが、そうせざるを得なかったのだろう。
準決勝の感覚からもそうしなければ勝てる射程圏に入れないことは分かっていた。
ただ今の状態では脚に限界があり、他を抑えきることができなかった。
それでもよくここまでリカバリーしたと思うし、後半力んで乱れそうになる動きを制御するテクニックは群を抜いているのではないか。
二冠はならなかったが、やはり偉大なスプリンターだ。
リチャーズは前半インレーンから詰められたことで予選、準決ほどのピンポイントで接地するような軽快な走りはできなかったが、前半どのポジションにいようとも後半追い上げる自信があったのか、最後までよく粘ってメダル獲得。
走りのタイプは全く違うが、レースパターンはケンテリスを思わせるものがある。
後半大逆転するには線が細すぎるかもしれないが、そこがこの選手の走りの魅力でもあるんだろう。
ミッチェル・ブレイクとウェブは走力を持て余したような走りといった印象。
それでもよりまとめることができたミッチェルが先着した。
もう少し前半出られるスピードがあるならば驚異的な選手になりそうだ。
ウェブは大外のレーンが影響したのもあるのか、かなりロスの多い内容だったが逆にそれだけ不安定な内容ながらも、それなりに辻褄を合わせることができるのもなかなか興味深いものがある。
マクワラは食中毒のため予選に出られなかったが、なんと救済措置でタイムトライアルを実施され見事にクリアして準決勝進出。更に決勝にも駒を進めて這い上がってきた。
マクワラの走りはとにかく上下動が少ないが、身体が浮くのを抑えているのではなく、膝から下だけで小走りする時のように、ナチュラルに浮かない脚運びができているように見える。
それだけ効率的に地面を捉えているのだろうが、反対に言うと可動域が狭く、決勝では並ばれてから対処できなかった。
やはり棄権するしかなかった400mでの勝負を見たかったな。
しかしマクワラは間違いなく今大会の主役の1人になった。経緯もさることながら、キャラクターもあるだろう。
そしてサニブラウン選手。
正直決勝は厳しいと思っていたが準決勝の走りは素晴らしかった。
特にコーナーの頂点に差し掛かるところから通過するまでが滑らかで、自身の走力を最大限に引き出すような素晴らしいコーナリングだった。
直線ではそんな加速を得た上で、規格外の出力を一歩一歩に乗せていくわけだから海外の強豪もそう簡単に捉えることはできない。
そしてその能力に見合うファイナリストという地位を18歳にして手に入れた。
決勝は脚に不安があり、直線で勝負できなかったがコーナーであそこまで戦えたのなら今後に十分期待できる。
誰も想像つかないような、本当にとんでもない選手になるだろうな。
ヤングはリズムが乱れると、とことん崩れてしまうのかその走力とは裏腹にいいところなく終わってしまった。
準決勝も1着通過しながら余裕はなかったが。
なお飯塚選手は準決勝で5着に終わったが、過去に出場した世界大会の個人種目の中では最も健闘したのではないかと思う。
競り勝ったシンビンやドワイヤーも途中で諦めたり、力を抜いたレースではなかったように見えるので、そんな中で5着は見事。
好調時のキレはないものの、冷静にレースを捉えて失速を最大限に抑えられた経験は大きいのではないだろか。
〜了〜
ロンドン世界陸上 男子400m決勝
M400m F
1.ファンニーケルク 43.98
2.ガーディナー 44.41
3.ハロウン 44.48
4.テベ 44.66
5.アレン 44.88
6.ゲイ 45.04
7.カーリー 45.23
8.マクワラ DNS
ファンニーケルクが2連覇。
気温が低かったことと、200mの予算を挟んでいることも影響してか記録は狙わず勝利を優先したレースだったようだ。
しかし世界大会でファンニーケルクの今回のようなレース展開もあまり見れないだろうから個人的には満足した。
いつも通りどこを取っても無駄がなく効率的な走りを構築しながらも、今季は100mで9.94を出すほどの更なるスピードを手にしているだけにこの選手を崩すのは難しいだろう。
前半からとばしても抑えても周りの状況に応じて勝負できるポジションに位置しつつ最終的にはトップでゴールできる流れを自在に構築できるのに、そこに加えて突出した走力でギアチェンジも可能なわけだから。
ボルト、ルイス、ジョンソンのような見た目の迫力はないが、逆に言うとそれで誰も勝てない領域に淡々と君臨していることがおそろしい。
これまでに類を見ないハイテクスプリンターではないだろうか。
ぜひ200mとの二冠を達成してもらいたい。
準決勝で素晴らしい走りを見せたガーディナーは銀メダル。
決勝もいい走りだったが、外側にいるファンニーケルクの圧力を前方から感じたのか、準決勝ほど伸びやかな走りができなかった。
ファンニーケルクの圧力を感じた、という意味では大なり小なり全員が自身のレースを乱されたかもしれない。
特にカーリーとテベはレーンの影響もあって必要以上に終盤までに消耗してしまったのではないか。
そんな中、後方待機して最後は大きな走りで前を行く選手を次々と抜き去り、見事に銅メダルを獲得したハロウンはファンニーケルクに次いで自分のレースができたのではないかと思う。
そして、残念なのはマクワラの棄権。
食中毒?しかも世界陸上公式ホテルの食事で?
なかなか大舞台で力を出せず、能力と結果にここまで差がでる選手も珍しいなと思っていたが、今年は間違いなく大丈夫だと安心した矢先にまさかの形で戦線離脱。
大きなお世話だろうけども、メダルを取らせてあげたかったな。
あるいは意気揚々と走った上で大敗するならマクワラらしいな、で済むが今回は気の毒でならないな。
〜了〜
ロンドン世界陸上 男子100m準決勝・決勝
M100m sf
1組-0.5m
1.シンビン 10.05
2.ガトリン 10.09
3.メイテ 10.12
4.フォルテ 10.13
5.ダサオル 10.22
6.ケンブリッジ 10.25
7.謝 10.28
8.キム 10.40
シンビンは予選と打って変わって、スタートで素晴らしい飛び出しを見せてそのままの勢いで逃げ切った。
パワフルな走りながら腕振りのリラックス度合いからも自信にみなぎったレースだったのだろう。
そんなここ一番の集中力は素晴らしいが、ここまで走れるのに予選は死んだふりし過ぎだろ、と思うほどちょっと危なかった。
ガトリンはシンビンのスタートにやられたが、自身のスターもよくてその貯金を維持する動きは見事だった。
メイテは持ち前の追い込みでガトリンに迫ったが追いつくには序盤で離されすぎた。
レースプランは出来ていたが、その精度はスタートが得意な2人に先行されたことにより崩されたように思う。
フォルテも同様に先行されて硬くなった。気持ちが先走ったか動きが身体の通過を待たず、ブレーキのかかる走りとなってしまった。
予選で9秒台を出していただけに悔しいだろうな。
ケンブリッジ選手もここまで先行されると自身の走りするのは厳しい。
そして今季はパワーアップしたことと動きが噛み合わないままここまできたようにも見える。
しかしそんな中でもよく粘り、ダサオルとある程度戦えたことは昨年のオリンピック準決勝より収穫があったといえるかもしれない。
2組-0.2m
1.ブレイク 10.04
2.プレスコッド 10.05
3.蘇 10.10
4.ハーベイ 10.16
5.ベルチャー 10.20
6.マタディ 10.20
7.サニブラウン 10.28
8.ウィルソン 10.30
ブレイクは余裕を持って通過したが、この走りを予選で見たかっただろうか。
あるいは体力面に心配があるのか。
いずれにしても走力で他を圧倒しており、ジャマイカ選手権の時より動きは噛み合っていたように思う。
プレスコッドは予選よりもスタートはスムーズに出られただろうか。まるで105m地点をゴールと見据えているかのように加速面において余裕があり、大きな体から発するバネを活かした走りだった。
蘇は残り20mから結構崩れたがやはりスタートが抜けており、その貯金で逃げ切った。海外転戦している強みもあるだろうな。
サニブラウン選手はこの組のメンツを見て決勝に行くのではないかと思ったが、スタート後に躓いてしまってまさかの7位。
かなり体勢を崩していたので、あそこから立て直すのは無理だっただろう。
スタートで出遅れた上に上体が前方へ向かい過ぎたか進行方向に対して大きなロスを生んでいたように見えるので躓くまではいかなかったとしても厳しかったと思われる。
攻め過ぎたということか。
しかし、今後大きな期待ができる選手に違いはないし、その前に200mでやってくれるかもしれない。
3組+0.4m
1.コールマン 9.97
2.ボルト 9.98
3.ビコ 10.09
4.ウジャー 10.12
5.多田 10.22
6.バーンズ 10.27
7.フィッシャー 10.36
8.グリーン 10.64
コールマンは予選だけではその実力が判断できないと言ったが、何ら問題なかった。
そしてボルトが一緒でも物怖じしないメンタルを持ち合わせていることも証明したレースだった。
またこれだけスタートで圧倒しながらも終盤まで柔らかさがあり、全米時よりも更に進化したように見える。
ボルトは不安を残す通過。
後半流してはいるがコールマンも流しているだけにそれほど余裕はなかった。
中盤からは無理やり追い上げるような、走力頼り(というのは極端だが)のらしくない走りだった。
ビコは相変わらずセミファイナルにはしっかりと合わせてくる。
上位2人を脅かすことはないが、スタートで加速するための土台をしっかり作る丁寧さは群を抜いている。
対照的にウジャーは予選より力みまくって前傾してしまい、自身の走りを失ってしまった。
DLではいい走りを続けていただけにファイナル候補ではあったが、厳しい世界だな。
多田選手は日本選手の準決勝のレースの中では最もいい内容だったのではないだろうか。
おそらくほぼ自身のベストと遜色ない走りだったと思う。
結果的に走力に差があったためファイナルは遠かったが、この舞台で自分の走りをできたことが素晴らしい。ましてや昨年まで代表圏外だった選手がだ。
これからに期待したい。
M100m F-0.8m
1.ガトリン 9.92
2.コールマン 9.94
3.ボルト 9.95
4.ブレイク 9.99
5.メイテ 10.01
6.ビコ 10.08
7.プレスコッド 10.17
8.蘇 10.27
なかなか素晴らしいレースだった。
ガトリンが「元々得意だった中盤まで並んで終盤抜け出すレース展開に戻ってきた」言っていたのは強がりに聞こえると以前書いたが、今のボルトの状態もふくめて、このレースを予見していたかのような戦略とハマり具合だった。
勝因はブーイングに動じないメンタル同様、走りの安定感にあったように思う。
重心が一歩一歩の動きに全てしっかりと乗り続けたガトリンの地道な走りが勝利を手繰り寄せたのではないか。
ゴール手前は力んだようにも見えるが、うまく身体が動きを迎えに行くように合わせてゴールラインをスムーズに駆け抜けた。
タイムはコンディションや風もあってか良くはないが、内容はこれまでのガトリンの走りにはない見事なものだったのではないかと思う。
凄い走りだった。
コールマンは予選、準決勝と続いて見事なスタートを見せた。
ガツガツ前半から攻めているようだが、実は無駄を省くことに注力したことによる序盤の強さであり、そのことによって生まれる余力が後半の減速を最大限に抑えているのではないか。
それくらいに動きは柔らかく、余裕がある。
といってもさすがに残り10mは力んだ。
よく保ったと思うが、そのあたりの修正ができれば今後とんでもない選手になるかもしれない。
そしてボルト。
準決勝の走りから決勝は心配されたが、それでもなんとかするのではないかと思った。
しかしどうにもならなかった。
本人が言うようにスタートが上手くいかなかった。飛び出したところまでは良かったが、前に進むというよりかはやや下に力が向かってしまったのではないか。
そこからは強引に追い上げたもののスタートで加速の基盤ができていない上にあれだけ序盤で離されたら厳しい。
リアクションタイムがガトリン、コールマンを上回っていたとしてもおそらく結果は同じだったのではないだろうか。
しかしそのスタートの失敗をもたらしたのはケガによる準備不足などもあるかもしれないが、純粋な衰えなのかもしれない。
本人もこの状態を見越しての今季限りの引退宣言であったのではないか。
そして最後の勝負に負けた。
それでも迫力は健在で、この豪快さはどの選手にも出せるものではなく、最後まで魅了してくれた。
ボルトらしい散り方、といっても銅メダルは取ってるのだから最低限の仕事は果たしたのではないか。
リレーはジャマイカチームが予選でバトンミスしないことを祈るばかりだ。
ブレイクは準決勝のようなスムーズな動きができず、リズムが狂ったのか動きがバラついてしまった。
やはり世界大会までのレース数が少なすぎたのではないかと思うが、それだけ状態に不安があったのかもしれない。
それといまひとつ身体が絞れていない、あるいは大きくなりすぎたように見えるのも気になる。
偉大な選手なので、復活してほしいところ。
シンビンは準決勝同様に自身の強みを活かした走りだったがメダル争いには加われなかった。
しかしスター選手の陰には隠れてしまうものの、世界大会2大会連続で5位の安定感はなかなかのもの。
接戦の中でブレイクには敗れたが、乱れそうな動きを極力制御できる巧さは世界を転戦してきたタフさにもよるものだろうか。
ビコは常に決勝で力を発揮できないイメージがあるが、今持っている力は出し切ったのではないかと思う。
トップ5には離されつつも、プレスコッドと蘇を置き去りに出来る安定感はさすがだな。
ただメダルを狙うには前半もう少し前に出ていないと今後も厳しいだろうか。
プレスコッドは準決勝と同じようなレース展開を狙ったかもしれないが、決勝の舞台ではそのような追い上げは通用しなかった。
それでも地元大会で決勝に残る強さも含め、伸びしろを感じるだけに今後を期待させるものがある。
そして蘇は2大会連続のファイナル進出となったが、前回は9位だったため今回が初入賞となる。
得意のスタートでとんでもなく出遅れたが、心が折れることなく最後までよく走りきったと思う。
〜了〜