陸上競技 男子短距離〜観戦記〜

主に男子短距離の観戦記&雑感などを勝手に書いているブログです

桐生選手が日本人初の9秒台を記録

先日行われた日本インカレで桐生選手が9.98の日本新をマーク。

とうとう日本選手初による9秒台がマークされました。

 

初めて日本人による9秒台の可能性を感じたのは90年代後半の朝原氏、そして伊東氏でした。

そこから約20年。正直ここまでかかるとは思いませんでした。誰がいつ出してもおかしくない状態が時代、世代を越えて持ち越され続けました。

 

ですが単に9秒台をマークするということ以上に価値のある、またそれに並ぶレースはこれまでにいくつもあったと思います。

直近で言えばサニブラウン選手の今年の日本選手権決勝や世界陸上予選の走り、昨年のオリンピックでは山縣選手の予選と準決勝、ケンブリッジ選手の予選の走り、遡れば朝原選手が世界大会以外の国際大会においても世界のトップたちと渡り合ったレースなどがそれにあたるのではないでしょうか。

 

要はどういったレースでどんな選手と走ったのか、そこでどこまで戦えたのかといった点においての価値です。

 

そういった価値のあるレースはいくつもあったにもかかわらず、なぜここまで日本新が出なかったのかが不思議なわけですが、それは為末氏が言っていたように日本記録が9秒台ではなく、10秒01でも02でもなく、00だったことも少なからず影響したでしょうか。

次の日本新は誰も成し遂げていない大台の9秒台だ、という壁を必要以上に、そして無意識に大きく作り過ぎてしまうとでもいうのか。

 

だとすれば、各選手の記録に対する無意識のリミッターは外れたかもしれません。

 

そして9秒台そのものも今までのような価値はなくなるのではないか。

 

現に桐生選手の今回の走りも本人が脚に不安があったというように、桐生選手ベストの走りではなかったはず。

 

多田選手もハードな連戦の疲れからか後半はやや脚が後ろに流れてしまい、好調時の走りよりかは劣ったのではないかと思うので、条件も良かったでしょうか。

 

とはいえ多田選手も10.07のベストで走っていることに違いはない訳で、序盤の飛び出しはやはり見事でした。

そして桐生選手が素晴らしいのはそんな多田選手に先行されても全く動じなかったこと。

 

いくらインカレとはいえ多田選手との対決は少なからずプレッシャーはあったと思います。

そして最近は勝負弱い、などという声もありましたので、その辺りの心理的影響も小さくなかったと思いますが、そんな壁を一つ乗り越えたところに9秒突入が待っていました。

 

レースを振り返ると、スタートは土江コーチもいうようにやや抑え目に見えますが、決して出遅れることはなく、むしろスムーズに飛び出すことができました。

 

跳躍選手が踏切前に一瞬力を抜くタイミングが見事にハマって大ジャンプにつながるかのように、スタートから起き上がるまでの動きは無理なくナチュラルでいて最大限の出力を生み出していたのではないでしょうか。

 

更にこの日はここからが凄かった。

いつもは50mあたりで到達する最高速度が60mあたりだったらしいですが、実際に中間地点を過ぎてからも力みはなく、脚の回転と接地が必要最低限の可動域内で処理され、そこから生まれたリズムと出力を桐生選手は見事にコントロールしました。それも多田選手と競り合いながら。

 

本調子であれば、更に噛み合えば8台後半から9台前半も確かに不可能ではないかもしれないですが、もちろんそんなに単純ではないでしょう。

走りの内容自体は今年の織田記念や、2年前に参考で9.87を出した時の方が良かったかもしれませんが、スプリンターとして優れたレースを作ったのは今回の方かもしれません。

 

今回記録は狙っていなかったとのことですが、いわゆる「出てしまった記録」とは違います。

簡単にいうなら走りに支配されるのではなく、走りを支配したレースだったとでもいうのか。

 

 

いずれにせよ、これで日本選手の限界線をも取っ払うことが本当にできたのなら、それが9秒台の持つ最も重要な意味なのかもしれませんね。

 

 

〜了〜

 

 

 

 

 

 

 

 

ロンドン世界陸上 男子400mR・その他

M400mR f

 

1.イギリス 37.47

2.アメリカ 37.52

3.日本 38.04

4.中国 38.34

5.フランス 38.48

6.カナダ 38.59

7.トルコ 38.73

ジャマイカ DNF

 

予選を見た印象ではアメリカ、イギリス、ジャマイカが強く、日本は中国、フランスと4位争い。

 

3強の一角がバトンミスをしてメダルもあり得るかと思っていたが、まさかボルトの故障によってこのような結果が訪れるとは思わなかった。

 

多田選手は大外のレーンが良かったのもあるのか、予選同様にトップ争いを演じて飯塚選手へ。

 

飯塚選手はトップの3国には詰められたか。しかし200mの時よりもキレのあるいい走りを見せた。

 

桐生選手はタルボットには先行されたがほぼ同じ位置をキープ。バトンはやや詰まったように見えたがアンカーの藤光選手へ。

 

決勝からのレースとなった藤光選手はベテランらしく、安定した走りを見せて見事に3位でゴール。

 

おそらくケンブリッジ選手でもメダルは取れたのではないかと思うが、この段階で最も好調だったのは藤光選手なのだろう。

やや前傾気味にも見えたが、動きはスムーズでキレていた。後続に追い上げられることなく、最後まで自身の走りができたのはこの選手のキャリアによるものもあるだろう。

 

日本はこれでオリンピックに続いて世界大会2大会連続でのメダル、世界陸上では初のメダルとなった。

チーム全体の安定感はやはり突出したものがあるのだと思うが、これからの選手はこの2年の結果がベースになるだろうからから大変だな。

 

それにしてもイギリスは強かった。全員よかったが2走のジェミリで抜け出したのが大きかったのではないか。

また同じ2走でガトリンが思いのほかリードを奪えなかったことも後押ししたように思う。

 

ミッチェル・ブレイクとコールマンのアンカー対決においては走力ではコールマンに分があるが、バトンのスムーズさに加えて加速走の能力でミッチェルが上回った。

コールマンは個人100mでは冷静だったが、ここではやや焦ったか。

 

そしてジャマイカは無念の途中棄権。

ハードルから駆り出されたマクレオド、また個人100mは準決勝敗退となったフォルテは想像以上にいい走りをしたが、ブレイクは個人に続き精彩を欠いて上位2チームに離された。

その差を追い上げるのに必要な走りは今のボルトには出来なかったということか。

 

結局最後まで走りきることも出来ずに競技場を去り、スーパースターとして残念な結果に終わった。

勝負の世界がいかに厳しく、無情なものかがよく分かるが、無責任に言うならその中で限界を超えて砕け散って終わるのもスプリンターらしいと言えるかもしれない。

 

なので、個人的には残念ではあるがスッキリした最後だと思っている。

いずれにせよ、最後まで強烈な印象を与える選手だった。

 

 

 

 

というわけで、遅くなりましたがザックリとした感想でした。

 

今大会もなかなか盛り上がりましたが、実はあまり他の種目は見れていません。

 が、その中でも男子400mH準決勝のクレメントのレース巧者ぶりに感心してからの決勝でのワーホルムのはじけっぷりなんかは印象に残りましたね。

 

ワーホルムは今季DLからはじけてましたが、大舞台ではクレメントがしっかり合わせてくるんだな、と思ってからのまさかの結末だったので面白かったです。

 

他にはサリー・ピアソンの復活優勝、バルシムの完勝も印象に残りましたが、細かいところでいうと男子マイルでアメリカを破って優勝したトバゴの2走を務めたリチャーズの走りは興味深いものがありました。

 

個人200mでもメダルを獲得し、400mのベストも45秒前半なので妥当な走りだったかもしれませんが、レースの流れを一気にチームに引き寄せた迫力は凄かったです。

もちろんセデニオ、ゴードンらの走りも素晴らしかったですが、今後世界のレースを盛り上げてくれそうな魅力を感じました。

 

男子400m準決勝で43秒台を出したガーディナー、女子100m準決勝のトリ・ボウイの走りなんかも印象に残りますが、やっぱりサニブラウン選手の100m予選が最も強烈だったですかね。

 

ここから2年間は世界大会がありませんが、その間に上記の選手も含めて新たなスターが誕生してほしいですね。

 

 

〜了〜

 

 

 

 

 

 

ロンドン世界陸上 男子200m決勝

 

 M200mf -0.1m

1.グリエフ 20.09

2.ファンニーケルク 20.11

3.リチャーズ 20.11

4.ミッチェル・ブレイク 20.24

5.ウェブ 20.26

6.マクワラ 20.44

7.サニブラウン 20.63

8.ヤング 20.64

 

今季のグリエフには期待していたが、まさか勝ってしまうとは。

勝因は直線で最も余裕があったからだと思うが、それはコーナーの走りから生まれたものなのだろう。

 

見た目の厳つさとは対照的にコーナリングは非常に丁寧で効率的。

「コーナーと仲良し」、そんな優しささえ感じる繊細さがある。

 

もちろん今季9秒台をマークしているそのスピード強化も大きな勝利の要因だろうけども、そのスピードを生かすためにコーナーに対して付かず離れず絶妙なポジションに位置し続ける能力の高さが凄いとでもいうのか。

 

所謂コーナリングの名手、というのとはちょっと違うような気がする。

200mと一体化されたコーナリングとでもいうのか、走力と自身のレースプランを一致させるために割り出された最も効率的なコーナリングとでもいうのか。

いずれにせよ余計な力を使わなかった分だけ最後まで自分のリズムとタイミングで走り抜けることができた。

 

 

ファンニーケルクは僅かだが前半飛ばし過ぎかと思ったが、そうせざるを得なかったのだろう。

準決勝の感覚からもそうしなければ勝てる射程圏に入れないことは分かっていた。

ただ今の状態では脚に限界があり、他を抑えきることができなかった。

 

それでもよくここまでリカバリーしたと思うし、後半力んで乱れそうになる動きを制御するテクニックは群を抜いているのではないか。

二冠はならなかったが、やはり偉大なスプリンターだ。

 

リチャーズは前半インレーンから詰められたことで予選、準決ほどのピンポイントで接地するような軽快な走りはできなかったが、前半どのポジションにいようとも後半追い上げる自信があったのか、最後までよく粘ってメダル獲得。

走りのタイプは全く違うが、レースパターンはケンテリスを思わせるものがある。

後半大逆転するには線が細すぎるかもしれないが、そこがこの選手の走りの魅力でもあるんだろう。

 

ミッチェル・ブレイクとウェブは走力を持て余したような走りといった印象。

それでもよりまとめることができたミッチェルが先着した。

もう少し前半出られるスピードがあるならば驚異的な選手になりそうだ。

 

ウェブは大外のレーンが影響したのもあるのか、かなりロスの多い内容だったが逆にそれだけ不安定な内容ながらも、それなりに辻褄を合わせることができるのもなかなか興味深いものがある。

 

マクワラは食中毒のため予選に出られなかったが、なんと救済措置でタイムトライアルを実施され見事にクリアして準決勝進出。更に決勝にも駒を進めて這い上がってきた。

 

マクワラの走りはとにかく上下動が少ないが、身体が浮くのを抑えているのではなく、膝から下だけで小走りする時のように、ナチュラルに浮かない脚運びができているように見える。
それだけ効率的に地面を捉えているのだろうが、反対に言うと可動域が狭く、決勝では並ばれてから対処できなかった。

 

やはり棄権するしかなかった400mでの勝負を見たかったな。

しかしマクワラは間違いなく今大会の主役の1人になった。経緯もさることながら、キャラクターもあるだろう。

 

 そしてサニブラウン選手。

正直決勝は厳しいと思っていたが準決勝の走りは素晴らしかった。

特にコーナーの頂点に差し掛かるところから通過するまでが滑らかで、自身の走力を最大限に引き出すような素晴らしいコーナリングだった。
直線ではそんな加速を得た上で、規格外の出力を一歩一歩に乗せていくわけだから海外の強豪もそう簡単に捉えることはできない。

そしてその能力に見合うファイナリストという地位を18歳にして手に入れた。

 

決勝は脚に不安があり、直線で勝負できなかったがコーナーであそこまで戦えたのなら今後に十分期待できる。

誰も想像つかないような、本当にとんでもない選手になるだろうな。

 

ヤングはリズムが乱れると、とことん崩れてしまうのかその走力とは裏腹にいいところなく終わってしまった。

準決勝も1着通過しながら余裕はなかったが。

 

なお飯塚選手は準決勝で5着に終わったが、過去に出場した世界大会の個人種目の中では最も健闘したのではないかと思う。
競り勝ったシンビンやドワイヤーも途中で諦めたり、力を抜いたレースではなかったように見えるので、そんな中で5着は見事。

好調時のキレはないものの、冷静にレースを捉えて失速を最大限に抑えられた経験は大きいのではないだろか。
 

 

 

〜了〜

ロンドン世界陸上 男子400m決勝

M400m F

1.ファンニーケルク 43.98

2.ガーディナー 44.41

3.ハロウン 44.48

4.テベ 44.66

5.アレン 44.88

6.ゲイ 45.04

7.カーリー 45.23

8.マクワラ DNS

 

ファンニーケルクが2連覇。

気温が低かったことと、200mの予算を挟んでいることも影響してか記録は狙わず勝利を優先したレースだったようだ。

しかし世界大会でファンニーケルクの今回のようなレース展開もあまり見れないだろうから個人的には満足した。

 

いつも通りどこを取っても無駄がなく効率的な走りを構築しながらも、今季は100mで9.94を出すほどの更なるスピードを手にしているだけにこの選手を崩すのは難しいだろう。

 

前半からとばしても抑えても周りの状況に応じて勝負できるポジションに位置しつつ最終的にはトップでゴールできる流れを自在に構築できるのに、そこに加えて突出した走力でギアチェンジも可能なわけだから。

 

ボルト、ルイス、ジョンソンのような見た目の迫力はないが、逆に言うとそれで誰も勝てない領域に淡々と君臨していることがおそろしい。

 

これまでに類を見ないハイテクスプリンターではないだろうか。

ぜひ200mとの二冠を達成してもらいたい。

 

準決勝で素晴らしい走りを見せたガーディナーは銀メダル。

決勝もいい走りだったが、外側にいるファンニーケルクの圧力を前方から感じたのか、準決勝ほど伸びやかな走りができなかった。

 

ファンニーケルクの圧力を感じた、という意味では大なり小なり全員が自身のレースを乱されたかもしれない。

 

特にカーリーとテベはレーンの影響もあって必要以上に終盤までに消耗してしまったのではないか。

 

そんな中、後方待機して最後は大きな走りで前を行く選手を次々と抜き去り、見事に銅メダルを獲得したハロウンはファンニーケルクに次いで自分のレースができたのではないかと思う。

 

そして、残念なのはマクワラの棄権。

食中毒?しかも世界陸上公式ホテルの食事で?

なかなか大舞台で力を出せず、能力と結果にここまで差がでる選手も珍しいなと思っていたが、今年は間違いなく大丈夫だと安心した矢先にまさかの形で戦線離脱。

大きなお世話だろうけども、メダルを取らせてあげたかったな。

あるいは意気揚々と走った上で大敗するならマクワラらしいな、で済むが今回は気の毒でならないな。

 

 

〜了〜

 

 

 

 

 

 

ロンドン世界陸上 男子100m準決勝・決勝

M100m sf

 

1組-0.5m

1.シンビン 10.05

2.ガトリン  10.09

3.メイテ 10.12

4.フォルテ 10.13

5.ダサオル 10.22

6.ケンブリッジ 10.25

7.謝 10.28

8.キム 10.40

 

シンビンは予選と打って変わって、スタートで素晴らしい飛び出しを見せてそのままの勢いで逃げ切った。

パワフルな走りながら腕振りのリラックス度合いからも自信にみなぎったレースだったのだろう。

そんなここ一番の集中力は素晴らしいが、ここまで走れるのに予選は死んだふりし過ぎだろ、と思うほどちょっと危なかった。

 

ガトリンはシンビンのスタートにやられたが、自身のスターもよくてその貯金を維持する動きは見事だった。

 

メイテは持ち前の追い込みでガトリンに迫ったが追いつくには序盤で離されすぎた。

レースプランは出来ていたが、その精度はスタートが得意な2人に先行されたことにより崩されたように思う。

 

フォルテも同様に先行されて硬くなった。気持ちが先走ったか動きが身体の通過を待たず、ブレーキのかかる走りとなってしまった。

予選で9秒台を出していただけに悔しいだろうな。

 

ケンブリッジ選手もここまで先行されると自身の走りするのは厳しい。

そして今季はパワーアップしたことと動きが噛み合わないままここまできたようにも見える。

しかしそんな中でもよく粘り、ダサオルとある程度戦えたことは昨年のオリンピック準決勝より収穫があったといえるかもしれない。

 

 

 

2組-0.2m

1.ブレイク 10.04

2.プレスコッド 10.05

3.蘇 10.10

4.ハーベイ 10.16

5.ベルチャー 10.20

6.マタディ 10.20

7.サニブラウン 10.28

8.ウィルソン 10.30

 

ブレイクは余裕を持って通過したが、この走りを予選で見たかっただろうか。

あるいは体力面に心配があるのか。

いずれにしても走力で他を圧倒しており、ジャマイカ選手権の時より動きは噛み合っていたように思う。

 

プレスコッドは予選よりもスタートはスムーズに出られただろうか。まるで105m地点をゴールと見据えているかのように加速面において余裕があり、大きな体から発するバネを活かした走りだった。

 

蘇は残り20mから結構崩れたがやはりスタートが抜けており、その貯金で逃げ切った。海外転戦している強みもあるだろうな。

 

サニブラウン選手はこの組のメンツを見て決勝に行くのではないかと思ったが、スタート後に躓いてしまってまさかの7位。

かなり体勢を崩していたので、あそこから立て直すのは無理だっただろう。

スタートで出遅れた上に上体が前方へ向かい過ぎたか進行方向に対して大きなロスを生んでいたように見えるので躓くまではいかなかったとしても厳しかったと思われる。

攻め過ぎたということか。

しかし、今後大きな期待ができる選手に違いはないし、その前に200mでやってくれるかもしれない。

 

 

3組+0.4m

1.コールマン 9.97

2.ボルト 9.98

3.ビコ 10.09

4.ウジャー 10.12

5.多田 10.22

6.バーンズ 10.27

7.フィッシャー 10.36

8.グリーン 10.64

 

コールマンは予選だけではその実力が判断できないと言ったが、何ら問題なかった。

そしてボルトが一緒でも物怖じしないメンタルを持ち合わせていることも証明したレースだった。

またこれだけスタートで圧倒しながらも終盤まで柔らかさがあり、全米時よりも更に進化したように見える。

 

ボルトは不安を残す通過。

後半流してはいるがコールマンも流しているだけにそれほど余裕はなかった。

中盤からは無理やり追い上げるような、走力頼り(というのは極端だが)のらしくない走りだった。

 

ビコは相変わらずセミファイナルにはしっかりと合わせてくる。

上位2人を脅かすことはないが、スタートで加速するための土台をしっかり作る丁寧さは群を抜いている。

 

対照的にウジャーは予選より力みまくって前傾してしまい、自身の走りを失ってしまった。

DLではいい走りを続けていただけにファイナル候補ではあったが、厳しい世界だな。

 

多田選手は日本選手の準決勝のレースの中では最もいい内容だったのではないだろうか。

おそらくほぼ自身のベストと遜色ない走りだったと思う。

結果的に走力に差があったためファイナルは遠かったが、この舞台で自分の走りをできたことが素晴らしい。ましてや昨年まで代表圏外だった選手がだ。

これからに期待したい。

 

 

M100m F-0.8m

1.ガトリン 9.92

2.コールマン 9.94

3.ボルト 9.95

4.ブレイク 9.99

5.メイテ 10.01

6.ビコ 10.08

7.プレスコッド 10.17

8.蘇 10.27

 

なかなか素晴らしいレースだった。

 

ガトリンが「元々得意だった中盤まで並んで終盤抜け出すレース展開に戻ってきた」言っていたのは強がりに聞こえると以前書いたが、今のボルトの状態もふくめて、このレースを予見していたかのような戦略とハマり具合だった。

 

勝因はブーイングに動じないメンタル同様、走りの安定感にあったように思う。

重心が一歩一歩の動きに全てしっかりと乗り続けたガトリンの地道な走りが勝利を手繰り寄せたのではないか。

 

ゴール手前は力んだようにも見えるが、うまく身体が動きを迎えに行くように合わせてゴールラインをスムーズに駆け抜けた。

 

タイムはコンディションや風もあってか良くはないが、内容はこれまでのガトリンの走りにはない見事なものだったのではないかと思う。

凄い走りだった。

 

コールマンは予選、準決勝と続いて見事なスタートを見せた。

ガツガツ前半から攻めているようだが、実は無駄を省くことに注力したことによる序盤の強さであり、そのことによって生まれる余力が後半の減速を最大限に抑えているのではないか。

それくらいに動きは柔らかく、余裕がある。

といってもさすがに残り10mは力んだ。

よく保ったと思うが、そのあたりの修正ができれば今後とんでもない選手になるかもしれない。

 

 

そしてボルト。

準決勝の走りから決勝は心配されたが、それでもなんとかするのではないかと思った。

しかしどうにもならなかった。

 

本人が言うようにスタートが上手くいかなかった。飛び出したところまでは良かったが、前に進むというよりかはやや下に力が向かってしまったのではないか。

そこからは強引に追い上げたもののスタートで加速の基盤ができていない上にあれだけ序盤で離されたら厳しい。

 

リアクションタイムがガトリン、コールマンを上回っていたとしてもおそらく結果は同じだったのではないだろうか。

 

しかしそのスタートの失敗をもたらしたのはケガによる準備不足などもあるかもしれないが、純粋な衰えなのかもしれない。

本人もこの状態を見越しての今季限りの引退宣言であったのではないか。

そして最後の勝負に負けた。

 

それでも迫力は健在で、この豪快さはどの選手にも出せるものではなく、最後まで魅了してくれた。

ボルトらしい散り方、といっても銅メダルは取ってるのだから最低限の仕事は果たしたのではないか。

 

リレーはジャマイカチームが予選でバトンミスしないことを祈るばかりだ。

 

 

ブレイクは準決勝のようなスムーズな動きができず、リズムが狂ったのか動きがバラついてしまった。

やはり世界大会までのレース数が少なすぎたのではないかと思うが、それだけ状態に不安があったのかもしれない。

それといまひとつ身体が絞れていない、あるいは大きくなりすぎたように見えるのも気になる。

偉大な選手なので、復活してほしいところ。

 

シンビンは準決勝同様に自身の強みを活かした走りだったがメダル争いには加われなかった。

しかしスター選手の陰には隠れてしまうものの、世界大会2大会連続で5位の安定感はなかなかのもの。

接戦の中でブレイクには敗れたが、乱れそうな動きを極力制御できる巧さは世界を転戦してきたタフさにもよるものだろうか。

 

ビコは常に決勝で力を発揮できないイメージがあるが、今持っている力は出し切ったのではないかと思う。

トップ5には離されつつも、プレスコッドと蘇を置き去りに出来る安定感はさすがだな。

ただメダルを狙うには前半もう少し前に出ていないと今後も厳しいだろうか。

 

プレスコッドは準決勝と同じようなレース展開を狙ったかもしれないが、決勝の舞台ではそのような追い上げは通用しなかった。

それでも地元大会で決勝に残る強さも含め、伸びしろを感じるだけに今後を期待させるものがある。

 

そして蘇は2大会連続のファイナル進出となったが、前回は9位だったため今回が初入賞となる。

得意のスタートでとんでもなく出遅れたが、心が折れることなく最後までよく走りきったと思う。

 

 

 

〜了〜

 

 

 

 

 

 

ロンドン世界陸上 男子100m予選

M100m予選

1組-0.1m

コールマン 10.01

ハーベイ 10.13

グリーン 10.21

マタディ 10.24

 

コールマンは絶好調。余裕を持ってゴールした。

が、上体の動きがやや硬く、動きがばらつく前に流したように見えなくもない。

走力は証明できたが、実力は次のラウンドで明らかになりそうだ。

 

ハーベイも最後流したが、そこまでの余裕は感じない。

前半でもう少し前へ出てないと準決勝は厳しいか。

 

 

2組-0.6m

サニブラウン 10.05

ブレイク 10.13

謝 10.13

バーンズ 10.22

 

正直9秒台が出たと思ったが、向かい風もあって残念ながら自己タイにとどまったサニブラウン選手。しかしなんという18歳か。

序盤の5歩くらいで自分のレースパターンに持ち込むのはいつも通りとしても、

このレベルの大会で中盤以降も乱れることなく走り切るのはお見事。

僅かに左右にぶれているかもしれないが、リラックスされていて上下動はなくスムーズに体を運んだ。

なんなら余裕すら感じる。

微調整を加えれば難なく決勝へ進むのではないだろうか。

 

ブレイクはどうしたのか。

力を温存したのかもしれないが、動きがバラついていてそこまでの余裕はなかったように思う。

いずれにしても4ラウンド制ならいざ知らず、いい通過の仕方だとは言えないだろう。

準決勝では本来の走りを期待したいところ。

 

謝は最後までよく粘ったがサニブラウン選手に先行されて中盤以降は乱れたか。

しかしパワフルな選手だ。

 

 

 

3組±0m

フォルテ 9.99

メイテ 10.02

プレスコット 10.03

シンビン 10.15

ウィルソン 10.24

 

自身の走りをしっかりと貫いたフォルテが予選最高タイムで通過。

中盤で並んでからが強い選手という印象。

 

メイテはスタートで少し態勢を崩しただろうか?

それでも2着に入る走力はさすが。

調子もよさそうだが、準決勝以降の走りを見据えて最後は流さない方がよかったかもしれない。

 

プレスコットはノソっと起き上がるようなスタートでロスしているようにも見えるが、全身にバネがあり、そこを最大限に生かした走り。

決勝進出ラインはこの選手あたりが目安となるのではないか。

 

シンビンはピーキングに失敗したのか精彩を欠いた。

 

 

4組-0.2m

蘇 10.03

ウジャー 10.07

ベルチャー  10.13

ケンブリッジ 10.21

 

蘇は相変わらずの好スタートで主導権を握り、そのまま走り切った。

さすがよく勝負どころをわかっているというか、大舞台にピークを合わせるのが上手い。

上体に力は力が入っているようにも見えるが、接地は正確でいてなんと軽やかなことか。

 

今季好調のウジャーも無事に通過したが、蘇の走りに圧力を感じたのかスタートの出来の割に上体はやや前のめりになってしまい全体的にスムーズでなかったように思う。

 

ベルチャーは全米の決勝と同様に後半追い上げる展開。

ただ予選から前半でここまで離されているようだと決勝は厳しいかもしれない。

 

ケンブリッジ選手は上位2選手に挟まれ、スタートで出られてしまっただけに厳しい展開となった。

ただ昨年の五輪の予選では厳しい組ながら素晴らしい走りをしていただけに心配になる結果。

調子は悪くないかもしれないが、動きが噛み合っていないように見える。

どこまで修正できるか。

 

 

5組 +0.9m

ガトリン 10.05

フィッシャー 10.19

キム10.24

 

ガトリンはさすが大ベテランといった走り。

最後は余裕を持って流しているが、レースの流れ自体はしっかりと構築出来ていて、ブレイクとは対照的にいいラウンドの進め方だったと思う。

心配なのは体力面か。

 

 

6組+0.3m

ボルト 10.07

ダサオル 10.13

ビコ 10.15

多田 10.19

 

 

ボルトは毎度のことながらしっかりと合わせ、段違いの走力を見せた。

やはり一歩のスケールが大きい。

これだけのパワーを高速の動きの中で制御しもって、正確に地面に伝えることができるのだから改めて凄いと思わせるレースだった。

準決勝・決勝ではさらにピンポイントで仕上げてくるだろうな。

 

ダサオルは最後まで粘って2着通過。

多少競っても中間までに獲得したスピードを維持し、押し切るだけの走力・パワーは健在。

 

ビコは相変わらず不安定な通過をするが、いつものことなので準決勝は一気に上げてくるのではないかと思われる。

 

多田選手は見事に予選通過。

やはりこの選手は本人も言うようにスタートの鋭さはさることながら、中間の押しの強さが一番の魅力かもしれない。

後半は流石に力んで上体が後傾してしまいブレーキがかかったが、そのあたりをどこまで修正できるか。

 

 

それにしても日本選手の全員が予選通過は凄いですね。

準決勝、そして決勝が楽しみです。

 

 

~了~

 

世界陸上2017 男子短距離予想

男子100m

 

優勝候補をざっとあげるなら

 

ボルト

ディグラス

ガトリン

ブレイク

コールマン

 

そこから上位3人を予想するなら以下の順位。

 

1ボルト

2ブレイク

3ディグラス

 

まずボルトは北京五輪で優勝して以降、最も調子が悪い(あるいは衰えを感じさせる)シーズンだと思うが、やはり合わせてくるだろう。

おそらく9秒8台前半で勝つのではないだろうか。できれば9.75以内のレースを期待したいが。

 

ブレイクはジャマイカ選手権以降はレースに出ていないようなので悩むところだが、同選手権では走りがまだ安定していないにも関わらず上手くまとめ、またそれを支える走力が他の選手よりも抜けていると思うので2位予想。

またボルトに勝つとしたらこの選手ではないかと思う。

 

3位も悩むところだが追い風参考ながら9.69をマークしたレースの内容が素晴らしかったこと、本番での勝負強さ、また若さから考えてディグラスがくると予想。

 

ガトリンは1〜3位までのどこに入ってもおかしくないので、外すのももったいない気がするが全米を制したレースから大幅に調子を上げられるのかが疑問なのでメダル予想からは除外。

「中盤までは競って終盤抜け出す、そんな自分らしいレースを取り戻しつつある」てな発言をしていたが、やや強がりな気もする。

しかし今季の不調はボルト対策で本番一発にかけるためのシーズンを通しての戦略なのかもしれないが。

 

コールマンはそのガトリンに全米で敗れたため外したが、アメリカの若手選手が世界大会で開花することも多々あるので期待できる存在ではある。

 

 

次点グループとして

シンビン

メイテ

ウジャー

ビコ

あたりが挙げられるがこの辺りはファイナルがラインとなり、運が良ければメダルも、といったとこだろうと予測。

 

日本選手ではサニブラウン選手にも大きな可能性がある。日本選手権以上の走りができればファイナルもかなり高確率で狙えるのではないか。

とんでもないことを成し遂げそうな気配もあるんだな。

 

多田選手とケンブリッジ選手はまず準決勝に進んでほしいところ。

 

 

 200m

1位 ファンニーケルク 

2位 ディグラス

3位 ブレイク

 

ファンニーケルクの優勝は期待も込めてだが、キャリアから考えると疑問符がつく。

とはいえ、100mでも9.94を出していることからショートスプリント勢に負けないスピードはある上で、ロングをまとめるテクニックも有するだけに期待は大きい。

競技スケジュールが最大の敵となるかもしれないが。

 

ディグラスは100m同様に本番に合わせてくると予想。なんなら優勝候補筆頭としてもおかしくはないのだが。

 

ブレイクも100mの理屈でいくなら優勝もありえるが、200mはそこまで仕上げられないのではないかと推測。

そして、久々に2種目で世界大会に出る体力面にも不安要素があるため3位予想とした。

 

他には グリエフがメダル争いに加わるかもしれない。

マクワラはタイムはいいが、400m後にそこまでの余力はないのではないかと思う。

 

日本選手はサニブラウン選手に決勝進出の期待がかかるが、100mがどのような結果になるかも影響するだろうな。

また体力面も不安要素か。

 

飯塚選手は準決勝が目安となると思うが、まずは上位で余裕をもって予選を通過してほしいところ。

 

 

400m

1位 ファンニーケルク

2位 カーリー

3位 マクワラ

 

200mに出るなら予選との兼ね合いが不安材料だが、実力はやはり抜き出ている。

マイケル・ジョンソンのようなしたたかさもあれば余裕をもって優勝できるのではないかと思う。

 

カーリーは未知数な部分も多いが、アベレージの高さから考えても本物だろう。

 

マクワラは本番に弱い印象もあるが、やはり今季の内容が優れていることと、メダルを取らせてあげたいという個人的な感情も入って3位と予想。

 

 

というわけで、大雑把な予想でしたが、

いよいよ始まるんですね。

 

時間があれば珍しくリアルタイムで更新していきたいと思います。

 

 

 

追記

なんと、ディグラスが棄権とのこと。

これは残念。

 

なので予想修正版です

 

100m

1ボルト

2ブレイク

3ガトリン

 

メダル争いはコールマンがきそうな気もする。

 

 

200m

1ファンニーケルク

2ブレイク

3グリエフ

 

グリエフは結構冒険的な予想かもしれないが。

 

 

 

そして、ブレイクも棄権しないだろうな、という不安は正直ありますが。

 

〜了〜