陸上競技 男子短距離〜観戦記〜

主に男子短距離の観戦記&雑感などを勝手に書いているブログです

ロンドン世界陸上 男子100m準決勝・決勝

M100m sf

 

1組-0.5m

1.シンビン 10.05

2.ガトリン  10.09

3.メイテ 10.12

4.フォルテ 10.13

5.ダサオル 10.22

6.ケンブリッジ 10.25

7.謝 10.28

8.キム 10.40

 

シンビンは予選と打って変わって、スタートで素晴らしい飛び出しを見せてそのままの勢いで逃げ切った。

パワフルな走りながら腕振りのリラックス度合いからも自信にみなぎったレースだったのだろう。

そんなここ一番の集中力は素晴らしいが、ここまで走れるのに予選は死んだふりし過ぎだろ、と思うほどちょっと危なかった。

 

ガトリンはシンビンのスタートにやられたが、自身のスターもよくてその貯金を維持する動きは見事だった。

 

メイテは持ち前の追い込みでガトリンに迫ったが追いつくには序盤で離されすぎた。

レースプランは出来ていたが、その精度はスタートが得意な2人に先行されたことにより崩されたように思う。

 

フォルテも同様に先行されて硬くなった。気持ちが先走ったか動きが身体の通過を待たず、ブレーキのかかる走りとなってしまった。

予選で9秒台を出していただけに悔しいだろうな。

 

ケンブリッジ選手もここまで先行されると自身の走りするのは厳しい。

そして今季はパワーアップしたことと動きが噛み合わないままここまできたようにも見える。

しかしそんな中でもよく粘り、ダサオルとある程度戦えたことは昨年のオリンピック準決勝より収穫があったといえるかもしれない。

 

 

 

2組-0.2m

1.ブレイク 10.04

2.プレスコッド 10.05

3.蘇 10.10

4.ハーベイ 10.16

5.ベルチャー 10.20

6.マタディ 10.20

7.サニブラウン 10.28

8.ウィルソン 10.30

 

ブレイクは余裕を持って通過したが、この走りを予選で見たかっただろうか。

あるいは体力面に心配があるのか。

いずれにしても走力で他を圧倒しており、ジャマイカ選手権の時より動きは噛み合っていたように思う。

 

プレスコッドは予選よりもスタートはスムーズに出られただろうか。まるで105m地点をゴールと見据えているかのように加速面において余裕があり、大きな体から発するバネを活かした走りだった。

 

蘇は残り20mから結構崩れたがやはりスタートが抜けており、その貯金で逃げ切った。海外転戦している強みもあるだろうな。

 

サニブラウン選手はこの組のメンツを見て決勝に行くのではないかと思ったが、スタート後に躓いてしまってまさかの7位。

かなり体勢を崩していたので、あそこから立て直すのは無理だっただろう。

スタートで出遅れた上に上体が前方へ向かい過ぎたか進行方向に対して大きなロスを生んでいたように見えるので躓くまではいかなかったとしても厳しかったと思われる。

攻め過ぎたということか。

しかし、今後大きな期待ができる選手に違いはないし、その前に200mでやってくれるかもしれない。

 

 

3組+0.4m

1.コールマン 9.97

2.ボルト 9.98

3.ビコ 10.09

4.ウジャー 10.12

5.多田 10.22

6.バーンズ 10.27

7.フィッシャー 10.36

8.グリーン 10.64

 

コールマンは予選だけではその実力が判断できないと言ったが、何ら問題なかった。

そしてボルトが一緒でも物怖じしないメンタルを持ち合わせていることも証明したレースだった。

またこれだけスタートで圧倒しながらも終盤まで柔らかさがあり、全米時よりも更に進化したように見える。

 

ボルトは不安を残す通過。

後半流してはいるがコールマンも流しているだけにそれほど余裕はなかった。

中盤からは無理やり追い上げるような、走力頼り(というのは極端だが)のらしくない走りだった。

 

ビコは相変わらずセミファイナルにはしっかりと合わせてくる。

上位2人を脅かすことはないが、スタートで加速するための土台をしっかり作る丁寧さは群を抜いている。

 

対照的にウジャーは予選より力みまくって前傾してしまい、自身の走りを失ってしまった。

DLではいい走りを続けていただけにファイナル候補ではあったが、厳しい世界だな。

 

多田選手は日本選手の準決勝のレースの中では最もいい内容だったのではないだろうか。

おそらくほぼ自身のベストと遜色ない走りだったと思う。

結果的に走力に差があったためファイナルは遠かったが、この舞台で自分の走りをできたことが素晴らしい。ましてや昨年まで代表圏外だった選手がだ。

これからに期待したい。

 

 

M100m F-0.8m

1.ガトリン 9.92

2.コールマン 9.94

3.ボルト 9.95

4.ブレイク 9.99

5.メイテ 10.01

6.ビコ 10.08

7.プレスコッド 10.17

8.蘇 10.27

 

なかなか素晴らしいレースだった。

 

ガトリンが「元々得意だった中盤まで並んで終盤抜け出すレース展開に戻ってきた」言っていたのは強がりに聞こえると以前書いたが、今のボルトの状態もふくめて、このレースを予見していたかのような戦略とハマり具合だった。

 

勝因はブーイングに動じないメンタル同様、走りの安定感にあったように思う。

重心が一歩一歩の動きに全てしっかりと乗り続けたガトリンの地道な走りが勝利を手繰り寄せたのではないか。

 

ゴール手前は力んだようにも見えるが、うまく身体が動きを迎えに行くように合わせてゴールラインをスムーズに駆け抜けた。

 

タイムはコンディションや風もあってか良くはないが、内容はこれまでのガトリンの走りにはない見事なものだったのではないかと思う。

凄い走りだった。

 

コールマンは予選、準決勝と続いて見事なスタートを見せた。

ガツガツ前半から攻めているようだが、実は無駄を省くことに注力したことによる序盤の強さであり、そのことによって生まれる余力が後半の減速を最大限に抑えているのではないか。

それくらいに動きは柔らかく、余裕がある。

といってもさすがに残り10mは力んだ。

よく保ったと思うが、そのあたりの修正ができれば今後とんでもない選手になるかもしれない。

 

 

そしてボルト。

準決勝の走りから決勝は心配されたが、それでもなんとかするのではないかと思った。

しかしどうにもならなかった。

 

本人が言うようにスタートが上手くいかなかった。飛び出したところまでは良かったが、前に進むというよりかはやや下に力が向かってしまったのではないか。

そこからは強引に追い上げたもののスタートで加速の基盤ができていない上にあれだけ序盤で離されたら厳しい。

 

リアクションタイムがガトリン、コールマンを上回っていたとしてもおそらく結果は同じだったのではないだろうか。

 

しかしそのスタートの失敗をもたらしたのはケガによる準備不足などもあるかもしれないが、純粋な衰えなのかもしれない。

本人もこの状態を見越しての今季限りの引退宣言であったのではないか。

そして最後の勝負に負けた。

 

それでも迫力は健在で、この豪快さはどの選手にも出せるものではなく、最後まで魅了してくれた。

ボルトらしい散り方、といっても銅メダルは取ってるのだから最低限の仕事は果たしたのではないか。

 

リレーはジャマイカチームが予選でバトンミスしないことを祈るばかりだ。

 

 

ブレイクは準決勝のようなスムーズな動きができず、リズムが狂ったのか動きがバラついてしまった。

やはり世界大会までのレース数が少なすぎたのではないかと思うが、それだけ状態に不安があったのかもしれない。

それといまひとつ身体が絞れていない、あるいは大きくなりすぎたように見えるのも気になる。

偉大な選手なので、復活してほしいところ。

 

シンビンは準決勝同様に自身の強みを活かした走りだったがメダル争いには加われなかった。

しかしスター選手の陰には隠れてしまうものの、世界大会2大会連続で5位の安定感はなかなかのもの。

接戦の中でブレイクには敗れたが、乱れそうな動きを極力制御できる巧さは世界を転戦してきたタフさにもよるものだろうか。

 

ビコは常に決勝で力を発揮できないイメージがあるが、今持っている力は出し切ったのではないかと思う。

トップ5には離されつつも、プレスコッドと蘇を置き去りに出来る安定感はさすがだな。

ただメダルを狙うには前半もう少し前に出ていないと今後も厳しいだろうか。

 

プレスコッドは準決勝と同じようなレース展開を狙ったかもしれないが、決勝の舞台ではそのような追い上げは通用しなかった。

それでも地元大会で決勝に残る強さも含め、伸びしろを感じるだけに今後を期待させるものがある。

 

そして蘇は2大会連続のファイナル進出となったが、前回は9位だったため今回が初入賞となる。

得意のスタートでとんでもなく出遅れたが、心が折れることなく最後までよく走りきったと思う。

 

 

 

〜了〜